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喜多見の井戸は
活躍中


左が井戸水、右が水道


昔使っていた井戸と
現在のモーター


井戸の近くにある
カシの木

『ポンポコ新聞』
第14号より(2003.7)

 喜多見5丁目に住む橋見さんのお宅では、飲み水以外の、食器洗い、洗濯、
 風呂、植木の水やりなど全てに井戸水を使っています。台所や風呂場には
 水道の蛇口と並んで井戸水の蛇口があります。

 「井戸水は、夏は冷たくて冬は温かいので給湯器を使わなくても一年中
 洗い物に使えます」
 試しに水を触って比べてみると確かに冷たさが全然違います。
 「私が子どもの頃は、お風呂場で井戸水を流しながらスイカを冷やしたり、
 お客様が大勢来る時はビールを冷やしたりしていたんですよ」

 「水脈は3~4mの深さにあると聞いています」橋見さんのお宅は野川から
 300m以上離れていますが、野川改修工事の際、井戸水が涸れる恐れが
 あるということで4mの深さまでパイプを打ち直したそうです。

 40年ほど前までは橋見さんのお宅と接している鈴木さんのお宅のキコキコ
 する井戸水を周囲の4軒で使っていました。現在はそれぞれの家がモーター
 で汲み上げるようになりました。

 鈴木さんは「水は病院坂の方から来ると言われていて、きれいなので、
 飲み水としても使っています。でもお隣では鉄分が多くて洗濯物が赤くなって
 しまうので洗濯にも使えないと言っていました。そのまたお隣ではきれいな水
 が出るそうですよ」
 そういえば、橋見さんのお隣にある森さんも味噌汁やお茶にも使っているし、
 お向かいでも洗濯以外はすべて井戸水を使っているのに、反対側の2軒お隣
 では濁っているから植木にしかやっていないそうです。水みちは複雑です。

 鈴木さんのお宅に偶然居合わせた、喜多見3丁目に住む村田新蔵さんは、
 元井戸掘り職人。井戸の近くにあるカシの木を見上げ、「実はこの木が大事
 なんです」。木が水を集めたり水を浄化してくれているそうです。

 「昭和10年頃が一番良かったわねえ」
 鈴木さんは今年80歳。当時は田んぼがあり、スミレの花が咲き、現在の
 東名下には川があってホタルが飛び、喜多見小のあたりからは西日で
 富士山がきれいに見えていたそうです。ハスが咲いていた湧水池もいつの間
 にか無くなってしまいました。

 「井戸水を飲み続けたい」
 鈴木さんは言いました。

 

喜多見の湧水


香取八代子さんと
芳雄さん


近くの湧水路

『ポンポコ新聞』
第16号より(2004.1)
 
 湧水といえば、成城の「神明の森みつ池」「成城三丁目緑地」が有名ですが、
 喜多見にも喜多見小学校近辺に4ヶ所の湧水地があります。
 このうち、喜多見小学校の労作教育でもお世話になっている、喜多見3丁目
 の香取さんの家の湧水を見せていただきました。

  木の根元から湧く
 庭先にある湧水地は5m×3mほどの池のようになっており、周りは木で囲まれ
 ていて、その木の根っこの下あたりから何ヶ所か水が湧いています。
 水は喜多見小学校前の水路に出た後、野川へと流れ込みます。

  野菜を洗っています
 水は、冬は温かく夏は冷たいので「野菜を洗うのに大変便利で、これがなく
 なると困ってしまいます」と奥様。手を入れてみると水が温かくて驚きました。
 以前は夏にビールやスイカを冷やしたりもしていたそうです。

  湧水の田んぼ
 昭和47年に喜多見小学校が開校した当初はこの湧水を引いて労作の
 田んぼを作っていたそうですが、水量が減ってきてしまい、昭和55年からは
 現在のような畑にしたそうです。

 喜多見には良いところがたくさんありますが、生活と密着した湧水のある
 香取さんのお宅は本当に魅力的でした。湧水には地下水の滋養量が影響
 します。喜多見にわずかに残っている湧水を守るため、私達も雨水を地面
 に浸透させたり、工夫したいものです。



湧水のしくみ

『ポンポコ新聞』
第16号より(2004.1)


  喜多見の地層ができるまで
 約1000万年前、関東平野は海面下にありましたが、現在の関東山地や、
 丹沢山塊、三浦半島、房総半島などに相当する陸地から運ばれた砂が
 堆積し、20万年くらい前に、隆起して陸地になりました。その後多摩川が
 砂礫を運んで武蔵野礫層が堆積し、さらに、箱根火山、富士火山の
 火山灰が堆積して武蔵野ローム層になりました。数万年前、東京湾の
 海面が下がり、多摩川沿いにはさらに低い河原ができて立川礫層が堆積。
 再び富士山が火山灰を降らせて立川ローム層となりました。ローム層の
 下に武蔵野礫層がある所を武蔵野段丘、立川礫層がある所を立川段丘
 といい、喜多見は立川段丘にあります。

  武蔵野礫層の湧水
 国分寺崖線の湧水は、地表に降った雨水が武蔵野礫層に帯水し
 武蔵野面と立川面の不整合面から流出しています。

  立川礫層の湧水
 同様に府中(立川)崖線でも、立川礫層に帯水し立川面と多摩川低地の
 不整合面で湧水が流出します。「崖線」とは段丘の縁の急崖の連続線を
 いうので、喜多見では崖線と呼べるほどのものはありませんが、狛江市
 の岩戸八幡神社から、慶元寺幼稚園付近、喜多見小学校正門付近に
 坂道や段差があり、ちょうどこの位置で湧水が湧いており、同様の理由で
 流出していると思われます。ただ残念なことに慶元寺幼稚園正門付近で
 田んぼができるほど豊富だった湧水は、周辺の宅地化のため、
 昭和30年代中頃で枯渇していましました。

  

 参考資料:
 喜多見小学校『喜多見』1992、
 世田谷区『安心して住めるまちづくりを』2003、
 東京都環境局『東京の湧水』2001、
 アジア航測『湧水地環境調査報告書』1992

 




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